Offline - Book-list(2013)
Blue sinks in Red
2013年5月4日発行/A5/P60<完売>
表紙:森鳥人様
<サンプル>
「ねえねえ、衛宮君。良かったら一緒にご飯食べに行かない?」
サラリ、とご自慢の髪を耳にかき上げながら去年のミス・キャンパスで最終候補まで残ったことがご自慢の美少女はエミヤの前に立った。
「申し訳ないが、恋人と約束しているので。誰かと二人きりで食事など誤解されるような真似はしない、と」
「やだぁ、衛宮君ってば古ぅい。それに恋人がいるっていうの、嘘でしょ? 女避けの」
だって貴方がそういった相手と一緒にいたのを見たひとって誰もいないし、と食い下がる美少女に、エミヤは苦笑を返す。
本当のことを言ってもこういった輩は後を絶たない。エミヤがかの資産家の衛宮の長男だと知れてからは特にそういったお誘いが多かった。もちろん、それだけではない。子供の時には虐めやからかいの対象だった褐色の肌や白に近い銀色の髪はエミヤが成長するに従ってエキゾチックな魅力へと変わった。異国の血が混じっているからか、均整の取れた身体は日本人離れして美しく、時には同性からも誘いを受けることもある。
それをエミヤは恋人がいるから、と一言の元に全て断っていた。ただ彼女が言うように、とても恋人がいるような生活は送っていないため、断るための口実だと噂されているらしい。
と、廊下の方からどよめきが起こり、それが徐々に近付いて来る。
(――?)
やだ、何あの人格好いい。モデルか俳優? うっそ、こっち来る。
女性たちの黄色い声がここまで聞こえて来る。
教室の入り口に、長身の男の姿が現れる。
すらりとした、けれども鍛え抜かれた見事な体躯を黒のスーツに包んだ男は、その手に真っ赤なバラの花束を抱えている。そんな気障な格好も、その整った男らしい顔の彼がすると違和感がない。確かにモデルか俳優が何かの撮影の途中に抜け出したのではないか、と女性が騒いでも仕方がなかった。
エミヤは僅かに目を見開くと、うそだ、と小さく呟く。
何故、彼が――ここに。
「やっだ、格好良いひと。あ、でも私は衛宮君のほうが――」
言い募る美少女の声も耳に入って来ない。
あんまり会いたいと願っているから、夢でも見ているんじゃないか、とエミヤは呆然と立っている。
と、彼が――エミヤの愛しい男が、エミヤを認めてにかっと笑った。
「エミヤ! 会いに来たぞ」
(ああ――夢とか、幻じゃなくて)
エミヤの顔が、満面の笑みに変わる。
「ランサー!」
ざわっ、とその場に居合わせたものが慄く。
いつもは静かな男子学生が突然現れたイケメンに駆け寄り、抱きつくと――熱烈なキスを、交わし始めたので。