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Offline - Book-list(2014)

君がくれた、夜明けの

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2014年1月26日/A5/P60/イベント価格:500円/通販取扱:とらのあな様
表紙:森鳥人様

<サンプル>

「またこの身体を抱きたいというのなら、ただそう言えばいい」
「やらせろ、って?」
 そうだ、とアーチャーは自嘲する。
 それがこの身には相応しい。
「私も君に頼もうと思っていた所だった。君のセックスはとても素晴らしかった、ぜひもう一度――」
 ぐいと近づいて来たランサーにキスされそうになって、アーチャーは止めろ、と、乱暴に胸を押しやる。
「嫌だ、キスはするなッ」
 何故、と問うような瞳に、アーチャーは嫌だ、と繰り返す。
 それだけは嫌だった。
 唇にする口づけは、愛の証。
 この英雄の、愛はあの――美しい髪の女性だけが得られるものだ。
 自分などには相応しくない。
『キスはね、すっごく神聖で大切で、だから誰にでもしちゃダメなんだよ、絶対!』
 幼い自分にそう言ったのは、あれは誰だったろうか。
 あいするひと。
『そう、神様の前で永遠の愛を誓った後に口づけるんだ。この人だけを愛するってね』
 あいするひとだけに。
『私のくちづけを捧げるのはあなただけです――』
 ああ、首だけになった英雄を胸に抱いて。かのひとは。

「……いや、だ」
 わかった、とランサーが頷き、
「アーチャー、オマエを抱きたい。いいか?」
 そう直截な言葉で聞かれ、アーチャーはそれならいい、と了承した。

 酷く、手荒に抱いてくれ、という願いは、やはりランサーには拒否された。

「これ、借りていいか。買って返すから」
 濃厚なセックスの後、アーチャーはそう許可を貰い、風呂場へと向かった。
 全く無駄な事をしている。
 下着を替えたら洗濯しなくてはいけないし、風呂場の掃除だってしなくてはならない。サーヴァントの自分達には不必要な日々の営み。それをあえてしたがるランサーはやはりこの世界を、その不自由さも含めて楽しんでいるのだろう。
 暖かい湯船につかり、ふう、と小さく息を漏らす。
 そう。必要ないからと言っても、快感を感じない訳ではないのだ。
 美味しいものを食べれば美味しい、と感じるし、気持ちの良い事をすればこの正確に再現された肉体はそれを快感と感じる。
 暖かい、冷たい、痛い――己の意思でコントロールも出来るが、基本的には人と同じ、五感全てがある。
 ばしゃ、と湯を顔にかける。自分はたぶん今、情けない顔をしているだろう。
(止せ――忘れるんだ)
 無駄な事を楽しむ英雄のお遊びに付き合う。それがアーチャーが勝手に決めた〝借り〟の返し方だ。ランサーもそのつもりでこの部屋を整うのに付き合えと言い出したのだろう。全く持って嫌になる位気持ちの良い男だ。自分一人でだってきっと困らないだろうに。
 嫌だ、とアーチャーは顔を覆った。
 これ以上、あの男の素晴らしさを知りたくない。
 かつて憧れて――憧れて。その生き方に。在り方に。
 そんな素晴らしい英雄が何故自分に構うのか。
 抱いてみたら、思いがけず良かった。それだけのことだろうけれども。
 さっきだって、あんなにアーチャーを感じさせる事などしないで、自身の快楽だけを追えばいいものを――。
「早く、借りを返して……ランサーが飽きるまでは……」
 早く飽きればいい。
 早く――。
 でないと。

 でないと――

「勘違いするな……気まぐれなのだから」

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