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Offline - Book-list(2014)

恋はまるで嵐のように ―年下槍×リーマン弓合同誌―

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2014年3月16日発行/A5/P100/皐月さんとの合同誌/イベント価格:1000円/通販取扱:とらのあな様
表紙/口絵イラスト:森鳥人様

<奈倉分/サンプル>

「アーチャー!」
 仕事が忙しい事を告げると、なら、とランサーは朝の一時間をくれと言って来た。
 目から鱗というか、発想の転換というか、それならばと了承した。
 毎朝、トレーニングを終えてから部屋に訪れ、シャワーを浴び朝食を一緒に食べる。ついでだからいいよと洗濯した服を置くようになったのが三日後、ごちそうになってばかりでは悪いからと、ランサーのお母さんの勤務先のハムやらベーコンを持って来てくれたのが五日後。お母さんに何か作ってやれと、料理を一緒に作って持ち帰らせたのが七日後。勉強を見てやるからと何度も言って、参考書を持って来るようになったのが十日後。
 持って来た参考書があまりにも初歩のものだったので、だから持って来るのを嫌がっていたのかと納得した。けど、経緯を考えると仕方ないのだからと慰めてそれを使って教えた。
 思った通りランサーは元々頭の回転は良いので、コツを教えるとどんどんと吸収した。
 大学時代にバイトで塾の講師をやっていた経験も役にたったかもしれない。
 ランサーは私の事を知りたがり、聞かれるままに色々と話した。
 そして、ランサーの事も徐々に知って行く。
 学校ではワイルド王子って呼ばれているとか、国体にも選出されるほどの選手なのだとか、母一人子一人ですごく仲が良く、父親が北欧の人なのだとか、街を歩くと必ずスカウトされるけどお母さんが反対しているのでバイトも禁止なのだとか。そんな暇があるのならトレーニングしなさいと言われていて、それを素直に聞いていて、陸上の担当教諭が可愛がってくれていてトレーニングウェアとかも彼のお下がりなのだとか。
 そしてお下がりと言いつつ本当は一回洗濯しただけの新品だってのも解ってて、けれどもそうやって贔屓されていても本人が自分の家が貧乏だとあけっぴろげに言っているので周りの友達も嫉妬しないのだろう。友達の事を話す時にすごく嬉しそうで、聞いているこちらが楽しくなってしまう。
 そして。
 十四日目の今日、ぎゅっと抱きしめられて、改めて告白された。
「好きだ、アーチャー」
 俺と付き合って下さい。
 普段とは違ってかしこまった口調でそう言われ、断りの言葉が喉まで出掛かる。
「きちんと言って。迷惑ならもう二度と、付きまとわないから」
 それは。
 つまり、付き合うか、二度と会わないか、究極の二択ということなのか。
「友達としてってのは、ダメなのか」
「本気で言ってる?」
 思わず俯く。
 ランサーがどうしたいのかは、態度でわかった。
 何気なく触れた手を慌てて引っ込めて握りしめたり、じっと見つめて来たり、その熱い視線が何を欲しがっているのか、何をしたいのか、鈍い私でもわかる。
「友達をレイプするような人間にはなりたくない」
 低くそう返され、申し訳なさにいたたまれなくなる。
 ランサーがそう言い切れるのは、私もそれを望んでいるのだと、ランサーに触られるのが決して嫌ではないと思っているのが伝わっているからだろう。
 自分から誰かを好きになりたい、と思っていた。
 そしてその相手はきっと、出会えばすぐ解るのだろう、と。
 そうしてあの夜。
 月の光の下で微笑む彼を見た瞬間――確信した。
 彼が、そう、なのだと。
 毎日。
 毎日、好きになる。

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