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Offline - Book-list(2014)

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2014年6月22日/A5/P40/特撮役者パロ/イベント価格:400円/通販取扱:とらのあな様
表紙:武居幸士様 本文ちびキャラ:よも様

<サンプル>

「マジやばいね-、ほんと凄いね-、話半分くらいに聞いてたけど、いやマジびびった」
 確か年齢はアーチャーよりもだいぶ上だが、感性が若いせいか、若者のような言葉を使っても違和感がない。プロデューサーは興奮したように言うと、立ち働く彼をじっと観察し続けた。いいね、すごくいい、と感嘆の声が漏れる。
 でしょう、とアーチャーも同意する。
「お待たせ致しました。ジンジャーエールです」
 流れるような動作でプロデューサーの前にグラスを置く。まるで映画のワンシーンのように優雅な仕草に、益々プロデューサーが目を輝かせる。
「あ、ねえねえ君、名前なんていうの?」
「ランサーといいます」
「へえ、格好良い名前だね! あ、これ、僕の名刺」
 ランサーは受け取ると、にこ、と笑みを浮かべる。
「ありがとうございます」
「君さ、芸能界に興味は――」
 言いかけたプロデューサーに、ありません、と淀み無く応えて、ランサーと名乗った青年は
「ご注文は以上でお揃いですね? 何かございましたらお声かけ下さい」
 と言い置いて背を向けた。
「……あちゃー、失敗?」
「あれだけの素材、スカウトが目を付けない訳ないでしょう」
 たぶん街を歩いているだけで有象無象の輩から声をかけられているに違いない。
 それこそ一流から怪しげな所にまで。それら全てをああしてすげなく断っているのだろう、と伺えるほど慣れたあしらい方だった。
「先走りすぎですよ」
 せっかくアーチャーが何度も足を運んで顔を覚えて貰ったというのに。口説くにはそれなりの下準備が必要だ。
「ごめん、だって嬉しくてさぁ」
 それはそうだろう。全く相手にされなかったとはいえ、実際にイメージ通りの青年が存在すると解っただけでも彼に取っては僥倖である。
「マジで駄目元で――にオファーかけようかと思ってたくらいでさ。そっちよりは日本在住ってだけでもラッキー」
 有名なハリウッド俳優の名前を挙げるプロデューサーに、アーチャーは小さく笑った。確かにイメージに近いが、一年近く拘束する日本のTVドラマに出演してくれるとは思えない。それに、その俳優よりもランサーの方がイメージにぴったりだった。
 青い長髪の鬘を付け、赤いコンタクトを入れれば完璧だろう。っていうかそんな派手な色味が似合う男など、彼くらいしかいないだろうと思える。
「すげー雰囲気あるよね彼。北欧の留学生? だっけ? 貴族の血を引いてますって言っても頷けるけど、こんな所でバイトしてないか」
 それはどうだろう、とアーチャーは思う。本物の金持ちの方が子供を甘やかさないと聞く。けれどもそれを今プロデューサーと談義して万が一ランサーに聞こえてしまったら印象が悪くなるだけだろうと、アーチャーは小さく相づちを打つだけに留めた。
 多忙で、なんとか時間を作って訪れた彼はじゃあまた、とランサーに声をかけると慌ただしく店を出て行く。アーチャーは我知らず溜息を付き、冷めたコーヒーを飲み干した。
 す、と目の前に影が出来て、ランサーがグラスを下げに来たのだとわかる。
「騒がしくして済まなかった。……悪い人ではないんだが」
「いえ、慣れてますので」
 それはやはりスカウトにか。
 アーチャーがマジマジとランサーを見上げると、端正な顔に皮肉気な笑みを浮かべてアーチャーを見返した。
「すげェ熱心に見てるから、口説かれるんだとばかり思ってたけど」
「えっ?」
「アンタに。俺が欲しいって、目が言ってたからさ」
 まるでそれを期待しているかのような口ぶりに、アーチャーはぎゅっと眉を寄せる。
 誰かに聞かれたらと心配して周囲を見渡すと、丁度客がはけたのか、二つ離れた席まで無人だった。でなければいきなりこんな事を言い出さないだろうと納得する。
 彼はゲイなのだろうか。周囲にもゲイが多いので別に気にならなかったが、自分が彼をそういう目で見ていると思われていたのは心外だった。
 いや、女性ばかりの客の中でただ通って熱い視線を送って来る男をそう捕らえてもおかしくはないか。
「――まあ間違ってはいないが」
 ひら、とランサーは先ほどの名刺をひらめかせた。――TVね、ホンモノ? と聞いて来るのに、ああ、とアーチャーは頷く。
「代表番号に問い合わせて貰っても良い」
 いくつかの番組名を言う。ああ見えて、やり手なのだ。特撮だけでなく、バラエティ番組も担当している。
「で、アンタは名刺よこさねェの?」
 いつもの穏やかで隙のない営業スマイルよりもずっと良いな、とアーチャーは睥睨する冷たい表情のランサーを見詰める。益々あの主人公にイメージが近くなる。

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