moonbath

Fate クー・フーリン×エミヤ 偏愛サイト TOP画像/Crimo様

Offline - Book-list(2015)

君の瞳に完敗!

book_l_24

2015年5月3日発行/A5/P100/イベント価格:700円/通販取扱:とらのあな様
表紙:森様

<サンプル>

どこでどういう話になったのだろうか。
かなり酔いが回ったアーチャーは、好みのタイプの話になった時に――思わず先日交番で嫌な目にあった事を思い出してしまった。相手が同じ警察関係だから、つい愚痴を言いたくなってしまったのかもしれない。
ひとしきり、その交番でどんなに自分が情けなく、みじめな思いをしたのか、ぶちまける。
「あー、それは……なんていうか、申し訳ない」
「いや、そういうつもりでは――いや、そういうつもりだったのだな。こちらこそすまない。警察は疑うのも仕事だものな、ちょっとでもひっかかったら調べる、そうやって多くの情報を集めて犯人に辿り着く事もある……私が真に怒るべきは、少女を襲おうとした変態だ」
「まあ、そう言ってくれると助かる。疑うのが仕事って、ちょっと嫌だよな、普通の人から見たら」
「そんな事はない。疑うだけじゃない、他にも色々――あるだろう。犯罪者から善良な市民を守るとか」
未然に防げるのが一番なんだけどよ、とランサーは苦笑する。今の現状は、起こってしまった事件の解決に終始している。
「それに、日本の警察は優秀だ。ちゃんと評価しているとも」
あんがとな、とランサーが笑う。その笑顔に、どき、と再び心臓が高鳴り、アーチャーはいいや、と視線を外した。なんて素敵な顔で笑うのだろうか。この男は。
「そーいやさ」
ランサーが楽しそうに言い出した言葉は、けれどもアーチャーの胸を抉った。
「あんた格好良いからモテるだろ、いったい何人の女の子を泣かせて来た?」
もちろんそれは酒の席での軽口だ。それくらいはわかる。
「あんたはどんなのがタイプなんだ? ちなみに俺は、脚が綺麗なのがいい」
しゅっとこう、引き締まってるの。
「男はさ、胸派と尻派だって言われるけどそれに脚派も入れて欲しいね」
ああ、とアーチャーは頷く。そうだ、この男はまっとうな性癖で、きっと今まで何人もの、脚の綺麗な女性と……。
アーチャーはかつてない程酔っていた。だからだろうか、普段なら絶対に口にしない事を、思わず口にしてしまっていた。後先を考え、石橋を叩いて、それでももう一度点検して、それから渡るような男が、石橋を飛び越えて対岸に渡ってしまったのだ。
「――私は、そのどれでもない」
自分では軽く言っているつもりだった。笑い飛ばして欲しい。
この幻の男に良く似た――アーチャーの理想の、男に。お前は間違っていると。俺はお前なんて相手にしないと。そうきっぱりと断罪して欲しかったのかもしれない。
もういい加減、自分でもどこかで区切りを付けなくては、と思っていた。現実を見ろ、と。彼の友人なら言うだろう。いつまでも夢を見ていられる年齢ではないのだ。
一生このまま一人で過ごす覚悟を持つか――ここできっぱりと振られて次に行くか。彼は幻の男ではなかったが、まさに理想そのもので。だからここで、彼にきちんと拒絶されれば。
きっと。
こくり、と息を飲む。
その言葉を言うのには、とてつもない勇気が必要だった。
声が震えていませんように、と願いながら、さらりとした響きに聞こえるよう慎重に口にする。
「君のような男性が、とてもタイプなのだ」
「――へ?」
突然のカムアウトに、ランサーはぽかんとアーチャーを見返した。
「え……っと、それって、あんたはゲイって事?」
「女性に性的興奮を覚えた事はないから、そうなのだろう」
だから余計、ロリコンと疑われて悔しかったのだ、とアーチャーは呟く。
「私は女性にも、子供にも、ましてや小さな女の子になど全くもって興味がないのに」
「うんまあ、こればっかりは生まれ付きだからなあ」
ランサーはしょうがない、と肩を竦める。
「どんな性癖でもいいと思うよ、犯罪さえ起こさなきゃね」
例えばもっと酷い性癖でも。妄想だけで済ませるのならそれは自由だ。自分の中だけで納め、他に迷惑をかけなければ――その変態性欲を垂れ流しにしたり、興味がないものに無理強いしたり、ましてや犯罪行為を行わなければ――自由だ。
「頭の中までは規制出来ない。っつーか、それはしちゃいけないだろ」
アーチャーが小さく笑う。ああこの男は、良いのは見た目だけではないのだ、と。
いつかもっと仲良くなれたら――そんな日が来るとは到底思えなかったが、想像するのならまさしく自由である――何故刑事になったのか、聞いてみたい。
「それで――どうだろう。私と寝てはくれまいか」

< リストに戻る

Page Top