２０１５年８月１６日発行／Ａ５／Ｐ１０８／イベント価格：１１００円　皐月さんとの合同誌

表紙イラスト：Ｃｒｉｍｏ様

＜サンプル＞

「つまり君は、ミスター」
「ランサーでいい」
「ランサー、君は日本語がそんなにも流暢なのに通訳の女性を付ける事を望んでいたと」
「打診があった時にはまだ片言しかしゃべれなかったからな」
「……は？」
「でもよぉ、やっぱ口説くんなら母国語だろ？　私の為にそんなにもってシチュエーションに弱いからな、女の子は」
「…………はあ」
「にしても、日本語ほんと難しいな！　普段の倍かかったぜ」
　打診があったのがいつかは知らないが、そう早くは無い筈。運転しながら、背後座席でくつろぐ青年をルームミラー越しにちらりと見やり、そっと息を吐いた。
　いやいや日本語難しいって、発音も完璧ですよ？　天才か。
　助手席に投げてある新品の翻訳機、返品出来ないだろうか等と、現実逃避をしたくなる。
　少なくとも意思の疎通に問題は無いのだから、喜ぶべきだろう。
　天才で、色男。嫌味な奴だ。
　そして何故アロハシャツ。とても似合っているが。
　この男を女性と二人きりにしてはいけない、という意味も解った。
　こんなにもイケメンに真っ向から口説かれたら、それはたいていの女性は落ちるだろう。
　バゼットもあれで面食いだから、はじめは抵抗するだろうがどうなってしまうか解らない。……いや恋人がいるからな、なんとか踏みとどまれる、か？
　凶暴な年下の青年を思い浮かべる。バゼットの為に極道から足を洗った彼は黙ってはいないだろうし、事件に発展するのも間違い無い――バゼットが入院してくれて良かった。
「日本には清楚な美人が多いって聞いて、めちゃくちゃ楽しみに来たんだぜ」
　そういう子はベットでは大胆だからなあ、と続けるランサーに、頭痛がしてくる。何の目的で来日したのか、肩を掴んで問いただしたい。その答えがアレなものだったら、二三発殴っても構わないだろうか？　国際問題になる？
「失礼、君は口説いた女性が本気になって結婚を迫ったらどうするんだ？」
「割り切れる〝大人の〟女としか、ベッドインはしねェし」
「嘘だろ」
「少なくともバージンには手は出さない。純潔ってのは、責任取れる男が貰うべきだろ？」
　面倒くさい事になるからと言い出さなくて良かった。もしその言葉が出たらたぶんこの男をぶん殴っていただろう。女性の敵、だと。最低なのは間違い無いが、とことん腐ってはいないようだ。