Offline - Book-list(2015)
Borderline
2015年12月30日/A5/P60/イベント価格:600円
表紙イラスト:宇太様
<サンプル>
「さて、覚悟はいいんだろ?」
賭けに勝った報酬をよこせ、と。そう言うランサーに、本気なのかと言いかけ、アーチャーは口を噤む。
「アーチャー?」
「……ッ、好きにしろ!」
では遠慮無く、とランサーはアーチャーの腕を掴んで、物陰へと連れ込んだ。
「ちょ、っと待て――こんな場所で」
「誰も見てねェよ」
室内でお触りなどしたら、絶対にそのままレイプしてしまう。先程店で、もしかして他の男と、と考えた時に、何故あの時自分はアーチャーの全てをモノにして置かなかったのかと本気で後悔したのだ。処女性には特に拘りがなかった筈が、どうにも自分でも不思議だが、この男に関しては独占欲の塊になるらしい。
何度も、何度も――死を、身近に感じ。アーチャーに二度と会えないかも知れない、と本気で思った。生きている事は当然ではなく、奇跡の連続なのだと、あの幼い時代に思い知っていた筈なのに――日本での温く甘い生活で、忘れていた。
だから。
もし、生きて再会出来たら――。
今度は逃がさない。
他に恋人がいても、既婚者だったとしても、たぶん、諦められない。ただ、その時には、アーチャーに選ばせようと、それくらいの理性はあった。選ばれるために最大限の努力はするが――パートナーを裏切る事が出来ない潔癖さすらも、愛しいから。だからその時は。きっぱりと振ってもらって、アーチャーの前から姿を消す。
遠く離れた場所で戦いながら、元気にしているだろうかと、時々思い出してくれればいい。
欲しがる心を、消す事はたぶん出来ないだろうから。
(なんでだろうな)
自分でも不思議なくらい。
この、男に。
短い緊急招集(サイレン)の音で、深い眠りから一気に覚醒し、飛び起きる。ちらりと確認した時計は、午前二時を指していた。いつでも対応出来るよう、もちろん服は着たままで、十秒で靴を履きキツく紐を結ぶ。
六十秒後には、全員が訓練場の庭に整列していた。
夜間訓練に対応出来るよう、もちろんヘッドライトも装着し、水筒や数日分の食料、救出の為のロープ等が入ったリュックを背負い、このまま山間部に三日間ほど放り込まれても対応出来る。
「――ヨシ」
休め、と号令をかけられ。
肩幅に足を広げ、両腕を後ろに組む。
「本日を持って、全員を新制度高度機能救助隊(ネオ・ハイパー・レスキユー)の正規隊員と認めるッ」
一瞬だけ、皆の顔に動揺が走ったが、はいッ、という返事と共にそれは消える。
元々が各々の場所でプロとして活躍していた者達である。そうして一ヶ月以上の訓練に耐え、真実を知っても逃げ出さなかった。本来ならあと二週間訓練を行った後、最終試験を行い、その後各部隊に振り分けるのだが。
時間が、無かった。
圧倒的に、人が足りないのだ。