Offline - Book-list(2015)
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2015年3月15日発行/A5/P186/イベント価格:1300円/通販取扱:とらのあな様
表紙:crimo様
<収録作品>
Blue sinks in Red改訂版
書き下ろし(22P)
狼には気をつけて【Out Break】の発情期ネタ
天使の休日【Beautiful Life】出会って1年半目くらいの補完
となります。上ふたつはHシーンを中心にかなり加筆・修正しているので、以前の本をお持ちの方にも楽しんでいただけるかと……。
※Blue sinks in Redにはバサ雁(改訂)が、薔薇と爆弾には 神←金(出来てません)要素が含まれますので、苦手な方はご注意下さい。
<サンプル>
ハッ、ハッ、ハッ
己の吐く息の音と、軽快な足音だけが響く。
朝靄の中、足取りも軽く、いつもの公園へと向かう。
いた。
軽快に揺れるジャーマンシェパードのしなやかな尻尾と、同じように揺れる、風にたなびく青い髪。まるで映画の一シーンのような美しい風景。
ほんの一瞬だけ、その親密な空気の中に割って入るのを躊躇する。
今更、ではあるが。
彼等と出会って、もうすぐ一年半になる。時が過ぎるのは早い。いきなり勝負をふっかけられたのが、つい先日だったような気すらする。
土砂降りや、仕事で来られない日を除いてほぼ毎日、こうして早朝の〝勝負〟は続けられていて――この公園を全速力で一周し、どちらが早いか競うそれはほぼ互角の戦績である。
私の足音に気付き、ランサーと、彼の師匠から預かったとても優秀で可愛い犬、ゲイルが僅かに足を緩める。もう何周かしているのだろう。私が住み込みで働いている遠坂の屋敷からここまではけっこうな距離があり、ちょうど彼等がこの公園を三周ほどしたのと同じくらい既に走っている。だから条件は互角で、丁度良い。
はじめて彼等に会った時は、ほんの気紛れでこちらに足を伸ばした。いつものランニングのコースが工事中で走りずらかった、それだけである。だからもし、ランサーに出会って、下らない勝負を持ちかけられなかったら、ほぼ、この公園には来なかったろう。
そうして彼等とも出会う事は無く――時嗣はもしかしたら、死んでいた。ほんの偶然であったが、あの日の気紛れを起こした自分を褒めてやりたい。
「はよ」
軽い挨拶を交わし、数十メートル先のベンチからだと目配せする。了解、という風に小さく頷くランサーの隣に並ぶ。今週は、私が内側を走る。別にどっちでもいいよ、というランサーに、外側の方が不利だろうと一週間交替で位置を交換しようと持ち出したのは私だ。ランサーは勝負の結果には子供のようにムキになるくせに、大らかで――大雑把、と言い換えてやってもいい――自分がずっと外側でも気にしない、と言っていた。
きっかけは何か忘れてしまったが、七、八ヶ月ほど前から、この朝の勝負に勝った方はささやかなお願いを聞いてもらえる、という約束がされた。
飲み物を奢ったり、ほんとうにささやかな事は一回ごと。それよりももうちょっと過ぎた願いは、十回勝ったら、と、いつの間にかルールが出来上がっていた。
ランサーはどんな人間が相手でも、懐に入り込むのが本当に上手い。才能ではないかとすら思う。そして誰とも馴れ合うつもりがなかった私とて、その手管に籠絡された一人だった。
くだらない、と思いつつ、ランサーが次は何を言い出すのだろうかと、ほんの僅か心待ちにすらしている。
私はいつも、十回分溜めて、次の休日に時嗣の元へゲイルを連れてくる事や、戦闘訓練に付き合って貰うこと等を望んでいたが、ランサーはほんとうに下らない事ばかり望む。
たとえば休日のブランチを一緒に取るとか、私の作った料理を食べたいとか――最近では、頬や額へのキスを許す、などがあって。別に唇にキスするくらいならいいぞと言うと、それは酷い、と逆に怒られた。
確かに、まずかったかもしれない。
出会って一年後くらいだろうか、ランサーは何をとち狂ったのか、私を好きだと言い出した。
それはセックス込みの感情で、ずっと待つから考えてくれ、と言われて。